『空人ノ國』と『ファントム・パラノイア』
ネタバレがある
『空人ノ國』と『ファントム・パラノイア』を読んで考えるところがあったので、それぞれの作品の関連を勝手に汲む。
(20170213公開)
【モラトリアムシェルタ】の『ファントム・パラノイア』と『空人ノ國』とを続けて読んで生じた勝手な感想を書き記す。
というよりも、『空人ノ國』から続けて読んだのもあって、ついつい並べて考えてしまうのである。この点は少し間を空けて読んだ方が良かったかもしれないと後悔している。
☆個別の感想は以下
テーマの継続性
さて続けて読んだ結果として、舞台やお話は違っていても、【モラトリアムシェルタ】さんの作品に僕が勝手に読み取っているテーマの継続性をより強く感じた。脈とでもいうべきか、『空人ノ國』以前のものも含めての一貫した姿勢が垣間見えるのだ。
大きな軛に義務づけられた生き方。
精神と肉体のずれによる苦しみ。
軛から放たれる生き方への恐れと憧憬。
生と死の相補性。どう生きていくか(どう死にたいか)。
罪と罰と赦し、それぞれへの希求。
透明であるということ。
生きることの力強い肯定。
以前(『パペット・チルドレン』の読後→
『羽人物語』で(僕が勝手に読んだ)テーマが、本作『パペット・チルドレン』でも強く出ていると感じた。退屈、変わり映えしないという意味ではなくて、書く人間として据えたいものが一貫していて力強いってこと。(それも俺の勝手な読みなんだけど)
— シワ (@KazamiSuma) January 3, 2016
https://twitter.com/KazamiSuma/status/683668742597824512)にも「一貫していて力強い」と書いたが、『空人ノ國』と『ファントム・パラノイア』を続けて読んで、この一貫性がサークル【モラトリアムシェルタ】の強さだと僕は確信した。むろん一貫しているからといって読後感までもが同じなわけではない(これも『パペット・チルドレン』の時に書いている)。
同じどころか各物語の落着点と、そこに至る各人物の思考の織り込み方が上手くずらされていると感じるほどで、そのずらして穿たれている軌跡こそ、サークルの強さの真骨頂であると僕は考えている。なぜそれが真骨頂だと思うのかは後ほど触れる。
外か内か
世界の行く末(作品の結末という意味ではない)に関して対照的な二作。
『空人ノ國』では世界(=神様)の抑圧を脱する形での「生への肯定」が描かれ、『ファントム・パラノイア』では各々が自分の内面にある抑圧を突破する形で「生への肯定」が描かれる。前者は外部的な世界ごと自分を一度壊して作り変えて、後者は内面的な自分の世界を一度消して作り直すとでもいえばいいのだろうか。
僕は『ファントム・パラノイア』を世界の内で生き直す選択と捉え、世界(神様の国)から出ていくとは異なる形での希望を読んだ。それはエピソード4のラスト、すり替わったかもしれない《オルタナ》の彼女が、まさに生き生きとしているのがとても印象的だったのも多分に影響している。
ところで『空人ノ國』における《ハクカ》(=「空人」)と『ファントム・パラノイア』における《オルタナ》。鏡写しのような設定であるこれらの存在自体が、二つの作品における突破される世界(外部と内面)を表しているのかもしれない。
《ハクカ》が切れたあとの症状は、《オルタナ》に芽生える自我ともいえるファントム・パラノイアの症状にきわめて近いと思われる。だがそれらが必ずしも悪い方へばかり向かわないのを、僕は伊群やエピソード4の彼女で見ている。そう考えると、空人とファントム・パラノイアは収斂のようである。作品上では相似、作者という点では相同というか。
読み方
ところで僕は基本的に、作品の向こうに作者の考え的なものを見いださないようにしている。最初に僕が一貫したテーマを勝手に読み取っている、と書いてあるのもそこに由来している。あくまで身勝手な感想なのである。
しかし【モラトリアムシェルタ】さんの作品は、その個人的な読み方ルールを揺るがしてくる。敢えてその揺らいでいる状態で比較して言及させてもらう。
続けて読んだのもあるだろうが、各作品の落着点が作者の考えの変遷のように見えてくるのだ。つまり作品そのものが、一貫したテーマ的なものに対する作者のその時点における足跡(そくせき)だと感じ取れてしまう。そしてその足跡は、『各物語の落着点と、そこに至る各人物の思考の織り込み方が上手くずらされてい』て、いつも着実に動いている。そうした作品の軌跡を、サークル【モラトリアムシェルタ】さんの強さの真骨頂だと僕は考えている。
ただしそれがなにか、どこへ向かうのかは思惟しない。作品を追うことでのみ、その光跡を観測したいと考えている。
文章
文章についても触れておかないといけない。といっても『パペット・チルドレン』の時に書いた、
>透明で、登場人物たちそれぞれに沁んでいく文章。
>使い方が慎重で、誤って他の場所に組み込んだら崩れてしまいそうな、そういう危うさをはらんだ精緻さがね。
という感想が僕としては端的に書けている気がする。がっつり嵌っている人間の言葉ではあるが、この人の文章が好きなら作品も好きになれるのではないだろうか。
その他
濃密で、読むのにとても大きなエネルギーがいるけれど、読後の疲労を心地よいと感じてしまう。この疲労を続けて感じてしまうのは勿体ないと思うほどだ。この点でも間を空けたほうがよかったのかも。
ただ、この時間を経験したいがために、僕はこのサークルの作品を今後も読み続けていきたいと思っている。
【モラトリアムシェルタ】
『空人ノ國』(2015年11月23日発行)
『ファントム・パラノイア』(2016年9月18日発行)