雑考閑記

雑考閑記

雑な考えを閑な時に記す

『奇術探偵 曾我佳城全集』

奇術探偵 曾我佳城全集

泡坂妻夫講談社(2000年)

奇術探偵曾我佳城全集

奇術探偵曾我佳城全集

 

収録

「天井のとらんぷ」「シンブルの味」「空中朝顔」「白いハンカチーフ」「バースデイロープ」「ビルチューブ」「消える銃弾」「カップと玉」「石になった人形」「七羽の銀鳩」「剣の舞」「虚像実像」「花火と銃声」「ジグザグ」「だるまさんがころした」「ミダス王の奇跡」「浮気な鍵」「真珠夫人」「とらんぷの歌」「百魔術」「おしゃべり鏡」「魔術城落成」

 

(20170529公開)

題名通り曾我佳城シリーズ全作品収録。
僕が読んだのは単行本の方。四六版の上製本だ。

模様(紋)のデザインは本職の泡坂妻夫が手がけたもの。
後で知ったけれど、分冊で出た文庫版の配列は単行本の発表順じゃないみたい。なので発表純に読めるこっちを手に取ってよかったと思う。

 

 

概要

1980年の『小説現代』5月号に初登場し、その後ちょくちょく(年に2~3作。87年除く)同誌で掲載されつつもいったん途絶。90年から93年は年に一回の掲載となりまた途絶。更にその7年後の『メフィスト』2000年1月増刊号に一挙三作掲載で完結、足掛け20年の作品。80年代の掲載分は講談社文庫(『天井のとらんぷ』『花火と銃声』)となっているも、90年以降の作品は未刊行であった。それがこの全集によってすべてが収録された。

20年は大きい。40年から60年、50年から70年、60年から80年、70年から90年、そして80年代から2000年。どこを切りとっても日本が大きく変わっているように感じられる。

作中での時代が連載開始時に設定され、かつ作中でほとんどその時間軸が進んでいないのに、外部の現実時間が過ぎた作品(「カイジ」とか)を思い出してしまった。まあそんな作品背景はともかく、僕はこの全集が初読で、かつ一気に読んだので、作中の年代のそのずれを感じなかったが、実際に20年かけて完結まで追った読者はどんなふうに読んでいたのかが気になる。
作品はそうした時代の大きな変化をほとんど感じさせないようきっちり仕立ててある。もっとも作中でも短く見積もっても12年はかかっているようなので、少年が青年になっている。しかし具体的に時間経過で変化したものに触れられているのはそれと魔術城の完成ぐらいで、他の者はやはりうまいこと遠ざけられている。その処理の上手さに僕は小説的な奇術を見た思いがする。

オチはどんでん返しというほどではないが、好きな感じの転回(誤字じゃないよ)であった。オチに直接絡むのは実質的に一作だけなので、そこがどんでん返しというほどでははないかと。(これはやっぱり僕の中で『明治断頭台』が相当に大きな影響力を持っているということである。)

 

そのオチの作品も含めて、以下、印象的な作品のみコメントしていく。

「空中朝顔
エロい。そしていい話。収録の中では三番目に好きかな。曾我佳城はほとんど関係ないのだが、いくらかそういった話も混じっているのが良かった。

カップと玉」
暗号が中心となる作品。興味深く読んだ。正解した五人組の小学生頭よすぎやろ。

「剣の舞」
偶然が殺意を呼び起こす苦い話。きっかけは偶然でも犯行は必然いうんはやはり鉄則。

「虚像実像」
最後の少年の科白が妙に印象に残った。最終話に絡んでくるのかと思ったけどそんなことはなかったぜ。

「ジグザグ」
印象に残った話。収録の中では二番目に好きかな。物悲しい事故。残された人たちの苦悩が思い浮かぶ。「剣の舞」を換骨奪胎したような話。

「ミダス王の奇跡」
エロい。収録の中では一番好き。トリックや事件より人間模様が好きなんですよ、僕は。あの宿の人の号がなぜわざわざ「佳城」なのか、そこがいまいちわからない。掲載時に佳城シリーズということにするため?

「浮気な鍵」
収録作の中で最もバブルっぽさを感じた作品。

「とらんぷの歌」
動機がわからんやん。

「魔術城落成」
それでええんかい、という話。オチとしては嫌いじゃないけどさ……。直につながるのは「ミダス王の奇跡」のみ。でもってこの事件自体はほとんど衝動的なものなんだよなぁ……。