雑考閑記

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雑な考えを閑な時に記す

『フィリグリー街の時計師』

フィリグリー街の時計師

ナターシャ・プーリー、中西和美(訳)/ハーパーコリンズ・ジャパン[ハーパーBOOKS](2017)

フィリグリー街の時計師 (ハーパーBOOKS)

フィリグリー街の時計師 (ハーパーBOOKS)

 

 

ネタバレ・辛口

 結論から言うと「わかりづらいなあ」。わかりたくなるために再読しようという気も起きない。

(20171118公開)

 

 1883、84年の虚実入り混じったヴィクトリア朝ロンドンでのお話。
 アイルランド民族主義者による爆弾テロがどうこうとあるけれど、主軸はそういう一味の暗躍とかテロ阻止とかではないので、アクションやサスペンスを期待する人は読まない方がいい。描かれるのはそうした時代背景を踏まえた中での登場人物の心模様や人間関係の深まりである。

 僕はアクションには期待してなかったけれど、それを差し置いてもしっくりくる内容ではなかった。掴みづらいんだよね、内容と文章が。

 各所の要点は抑えてあるんだけど、痒いところに触れられていないような感じがして、どことなくそぞろな内容に読めてしまった。展開にメリハリを感じ取りづらいというか、ずっと同じテンポで進んでいかされる感じ。

 

 人物についても掴みづらい。全般的に人物の内面がしっかり語られている感触を、僕が上手く得られなかったからだろう。言いかけて言わなかったことの内容は推測しにくく、セリフ回しにもしっくりこず、人物の真意が読み取りづらい。なので登場人物も、その機微を把握するのに骨が折れてしまい、終盤はもういいやって骨が折れたまんま雰囲気読みですました。なんかいいようになったんでしょう。

 

 グレイスにはまるで共感できなかった。この人が出るシーンはなんか、なんか……。すごい半端な役どころ。こいつ一発か二発か三発は殴られてもよかっただろ。

 

 モウリの設定はSFっぽくていいけど、その設定もかっちりつかみきれないからこれも雰囲気読みだ。蓋然性予知の彼は展開した内容をどこまで知っていたのか、あるいは知らない範囲内で引き起こされた事態なのか、その違いが分からんのが最大の要因かな。

 さらには消えた蓋然性については記憶も失うという設定も相まって、後から予知と現実の内容の差異を物語上で検証するのが難しく、それがつかみきれなさに拍車をかけている。

 

 ナサニエルは音を色で捉えられる共感覚保持だけど、これも話の展開に言うほど役立った感がない。むしろこういった能力や設定は話の筋に働きかけるよりも、登場人物同士の触れ合いに活かされている。ただ、主人公なので一番がんばっていたと思う。この人が主人公じゃなかったら読むのにもっと時間がかかっていただろう。

 

 モウリとナサニエルの展開については、西洋人だからそういうスキンシップかと思っているのだけれども、そうじゃないのだとしたら僕としては唐突感があって戸惑いを覚えてしまった。グレイスと離すために入れたんじゃないの? 感が強くてね。これ(唐突に感じたの)もやはり心情等を読みとれなかったのに起因しているのだろう。

 

 読んでいる俺の能力不足だということにしておこう。まあ僕の肌に合わんなと。率直に言えば面白くなかった。