雑考閑記

雑考閑記

雑な考えを閑な時に記す

『世紀末までの大英帝国』他

世紀末までの大英帝国 近代イギリス社会生活史素描

長島伸一/法政大学出版局(1987)

(20180101公開)

 

 16世紀末ごろから19世紀末までのおよそ300年を三期に分けて英国の社会生活史を活写する試みの本。
 この300年で重商主義~商業革命(貿易相手に新世界、アジア、アフリカが加わって、各地の産物が欧州へ入るようになり、世界的な貿易体制が整い始めた時期)、産業革命、そして前二期が結実したかのようなヴィクトリア朝

 産業革命により中流層が興るまで、英国は上位聖職者や貴族といった地主を中心とする上流とそれ以外の労働層=下流という構造。産業革命がおこり土地を持たぬ資本家が増えてくると、中流という意識が発生したが、政治的な権力は選挙法改正を待たねばならなかった(他方、下層の人々による暴動は政治的な権力や訴える手段を持たない人々たちが取り得た唯一の政治的な行動であった)。中流層スノビズムが滑稽なのは新井潤美の『階級にとりつかれた人びと 英国ミドル・クラスの生活と意見』で見た通り。

 中流層が膨らみはしたが、それは社会全体の大きな底上げを意味しなかった。それでも下流層も少しずつマシにはなっていたが、昔と比べてマシというのも慰めにすぎぬ環境の改善は、下層に目を向けて上層に啓蒙してくれる人々がいなければ自然解消を待つしかなかっただろう。
 社会全体に余裕が生じてようやく下層の生活にも手が回る。上層や中層が自分の懐だけを考えているような社会では下層は圧死するばかりである。

 下記書物も読んでいたのでより理解は深まったように思うので、冒頭と以下に合せて紹介しておく。
『19世紀のロンドンはどんな匂いがしたのだろう』青土社(1997年)/ダニエル・プール、片岡信(訳)
『階級にとりつかれた人びと 英国ミドル・クラスの生活と意見』中央公論新社中公新書](2001年)/新井潤美
『執事とメイドの裏表 イギリス文化における使用人のイメージ』白水社(2011年)/新井潤美

19世紀のロンドンはどんな匂いがしたのだろう

19世紀のロンドンはどんな匂いがしたのだろう