『不言不語』
不言不語
岩波文庫 昭和27(1952)年 第一刷撥行
※読んだのは昭和28(1953)年「撥行」の第四刷
(20180101公開)
第一刷発行は戦後であるが、1952年と50年代初頭のため奥付は正字表記。★一つで四十圓時代。
私のような人間でもすらすら読める雅文調(擬古文)。これぐらいなら現代の人間でも労せず読めるぐらいの線だろう。
見ようによっては探偵小説なんだそうな。人の秘密を探るような性向全般を探偵趣味と呼んだからだろうか。筋だけ追うと若干の中だるみを感じないでもないけれど、擬古文の描写で上手く縫い繕ってある。
最後の一節については蛇足との感もあるようだが、すっきりしたい身としてはあれでよいように思う。
それにその一節がまことであるかどうかは、署名の表記でますます疑えるようにも読める。真偽はかえって深まる。一節がなければ奥さんのある過去に対しての贖い(過剰な献身)ばかりが強調されていたのではなかろうか。
もっとも僕の感は隠約の妙を捨てて作中の謎についてばかり求めているので、縹渺を味わおうという気概はないに等しい。ただ題「不言不語」を顧みると、やはり暗中に潜めさせるのも一手ではあったのかもしれぬ。
誰が何を言わず、語らなかったのか、すべては過ぎ去ってしまった。