雑考閑記

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雑な考えを閑な時に記す

『台湾鉄路千公理』

台湾鉄路千公理

宮脇俊三

角川文庫、昭和60(1985)年8月25日初版

発表誌:『野生時代』昭和55年9月~11月号
単行本:角川書店・昭和55年12月

台湾鉄路千公里 (角川文庫 (6160))

台湾鉄路千公里 (角川文庫 (6160))

 

 

もう40年近くも前の台湾道行。
当時は当然ながら捷運(メトロ)もないし高速鉄路(深化ねん)もないし、鉄道で島内一周(環島)もできない。台東線はナローで独立しており、これが北廻線によって花蓮までつながれた直後の時代である。

現代の路線図と見比べてみると、当時からの発展ぶりに驚く。都市部(台北、高雄)における捷運の発達と高速鉄路の開業が特に大きいけど。地味ながら阿里山森林鉄道も延伸されている。他にも、路線図には表示されないのでわかりづらいが、各線も複線電化や新線への切り替え等が行われている。

こうした発達は台湾の発展と成長をそのまま表しているといえよう。
一方でいくつかの支線や製糖鉄道の路線などが廃止されている。都市部の公共交通は大きく発達、延伸したようだが、かたや地方ではモーターリゼーションや自動車輸送への切り替えが進んでいるのが路線図からも見えてくる。

 

さて、本の内容である。
宮脇俊三はところどころで「何かの間違いで台湾に置き去りにされた」との感を抱いているのが面白い。まだまだ日本統治時代を知る方が多く存命している、そういう時代であった。つたない台湾語と筆記、日本語で上手いこと旅をしている。

時代柄か土地柄か、折に触れて買春の誘いをかけられている。当人は乗り気ではないが、かといって満更ではなさそうな感じに興味を持っているのも面白い。それでもなんだかんだで躱しながら乗車の旅を続ける。
途中での観光らしい観光は夜店めぐりと太魯閣渓谷ぐらいか。

乗車にあたっては本人の喜びとは別に淡々と記されている。この点はやはり鉄道趣味者が書く記録の域を脱していて、これこそ宮脇さんの著書が多くの人に読まれた大きな理由であろうと思わされる。

台湾は地形的にも面白い島なので、いつかめぐってみたい。