雑考閑記

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雑な考えを閑な時に記す

『世界文化小史』

世界文化小史

H.G.ウェルズ、下田直春(訳)

講談社講談社学術文庫](2012)

 

 1970年邦訳の再刊。原著は1922年に出て1946年に改訂されている。
 本書は1922年初版の訳出で、第二次世界大戦後の改訂版ではない。この初版と改訂版の違いについては解説等で記されているが、なんといっても第二次世界大戦という大きな出来事を抜きには語れない。

世界文化小史 (講談社学術文庫)

世界文化小史 (講談社学術文庫)

 

(20180105公開)

 

  初版は第一次世界大戦後の、戦争はこりごりという空気もある中で書かれたものであり、本書を読めばそこここに「人類はもうこんな愚かな戦争をしないだろう」という、人類への信頼があるように思われる。ウェルズ自身がそういった、科学と知性と歴史への反省がもたらす人類の明るい未来に満ちていたのも大きいのだろう。
 彼が人類にものすごい希望と可能性を見ていたのがよく分かる。その後の歴史を知る身にとって、彼の明るさはいささか楽観的、過大にも見えてしまうが、明るい科学観というのはまさにこうした希望ある未来観を示しているのだろうと感じた。

 しかし悲しいかな、第二次世界大戦(を経た改訂版)では、彼はすっかりしょげ返ってしまったようである。改訂版は本書の範囲ではないのでここでは触れないが(解説にそこいらの概要が記されている)、およそこの本(初版と改訂版)は、ウェルズの晩年の態度を示すものとしても著われて(現れて)いるようにも思える。

 外部的な事情はさておき、本書は人類の歴史をこの星の発生までさかのぼって通観している。
 細かい事象は「歴史の梗概(邦訳『世界文化史体系』)」に譲って、本書は大まかな流れを記述しており、様々な興亡と文化を67(初版)の区分けで記してある。むろん100年近く前に書かれたものであるから、細かい点では更に解明されたりして変わっている記述もあるだろうし、西洋人であるウェルズ自身の視点の偏りなどもあるかもしれないが、大きな歴史の流れという点では、今日の認識とそう大きな差もないのではなかろうかと思う。むしろ概要や流れの記述にとどまっていることから、現代においても多大な書き換えを要さない部分に、この『世界文化小史』の価値があるのかもしれない。
 おおよその世界史を学ぶ前に読んでみたり、再学習する前にざっと通読してみるのにも適しているのではなかろうか。