『騒動師たち』
騒動師たち
野坂昭如/角川文庫(1971年)
アンコのおっさんが大暴れする痛快劇。
彼らは媚びないし権力をなんやそんな屁みたいなもんと思っとる。敗戦を経験し、その前後でコロッと変わった日本という国や人を見ているからだろう。
闇市ではなりふり構わず生きていった彼らであるが、次第に混乱が落ち着くにつれ落魄していってしまう。
混乱の収束とともに現れたのは体裁を取り繕い文明国面する国であった(舞台は60年代末ごろと思われる)。そうした中で、ある野望を胸に、行く先々で騒動を起こしていく様は愉快痛快である。
のだが、途中から私は哀愁というか悲哀を強く抱くようになった。
おそらくそれは作中の彼らの心境そのものでもあっただろう。
野望の成就は遠く、自分たちは何をしているんだと。そういう現実を認識しつつも、そこを妥協したら自分は何者でもなくなる。だから結局俺は追うしかないんだと。緩やかな破滅への進行。何人かは脱落する。
それでも目的を曲げずに挑むため、彼らはついに安田講堂に乗り込む。
叶わぬならばせめてにぎりっ屁のような一撃をかましてやろうと。
そうして得られたのは現実とは少し異なる末来。
ささやかながら名が残った末来であった。
しかしそれは希望というよりも墓標のようで、それが悲哀さをいや増している。