雑考閑記

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雑な考えを閑な時に記す

蒸奇都市倶楽部『暗翳の火床』無料公開についての補記

 蒸奇都市倶楽部から新刊『暗翳の火床』を「小説家になろう」と「カクヨム」で公開するという発表があった。大筋の説明は蒸奇の広報から説明があった通りだ。

 一連のツイートをまとめた記事は下記参照。 

steamengine1901.blog.fc2.com 

 説明は上の記事で広報が簡潔にまとめているのだが、片足どころか両足を突っ込んでいる今回の主著者としても、以下でツイートを引用しつつ説明していきたい。

 

 今回のオンライン小説化、改めて説明すると、

(1)冊子の絶版という無料公開の条件を満たしていた*1

 (2)より多くの人に読んで蒸奇都市倶楽部を認知してもらいたく、そのための(言い方は悪いが)見せ金的なもの

 といった理由である。

 広報はその性質上サークルの合意として僕が許可を出したように書いているが、実際のところこの無料公開は僕の発意による。(※サークル内での責任者を明確にする意味でも、僕が主導したとはっきり書いておく

 

 以下で裏話というか個人の本意を明かすので、苦手な人はここまで。

plag.me

 

 


 今回の決定について僕から二、三の補足を付け加えておく。

 

『有償頒布物を期間を置かずに無料で公開する』ことについては、文学フリマやテキレボに出展し、同じ方法を実践していらっしゃる様々なサークル様を参考にさせていただいた。
 というか、蒸奇が出展しているイベントを見回すと、こうしたサークル様はかなりいらっしゃる。僕が見聞きし、調べた範囲においては、冊子(同人誌)とWeb掲載の二刀流はほぼほぼ主流と言って差し支えないだろう。こうしたサークル様は、もともと無料だったオンライン小説*2 の文庫化や、イベント頒布からすぐにオンライン小説として公開していらっしゃる。

 公開先は「なろう」や「カクヨム」といった有名所の小説投稿サイトの他、自前のWebサイト、あるいは電子書籍として有償頒布しているかといった違いはあるものの、広くWeb上で冊子とほとんど同じもの*3 読める状況を構築しているサークルが圧倒的多数だ。いずれにせよ、オンライン小説は現在の媒体の主流を考えればすぐわかることである。

 今回の蒸奇は思い切りその方法に倣った。文庫化との電子書籍(有償頒布)の併用でないのは、比率としては無料で公開しているサークルが多かったからだ(僕が調べた範囲では)。またなるべく多くの人に、という目的を考えた際には無料の方が適しているとも考えた。

 他方で電子書籍化に伴う作業時間の確保の目途が現時点で立たないという内情もある。*4

 

 蒸奇はオンライン小説化に及び腰だ。

 理由はいろいろあるが、最も大きなものとしては、元々の原稿データおよび入稿データが完全に紙媒体向けで、これを横書きのオンライン小説への適合化する作業と、各小説投稿サイト一回分の長さ(約2000~4000字とされている)に区切る作業がそれぞれ煩雑なことだ。

 身も蓋もなく言えば作業の面倒臭さを前に手をこまねいていた。

 例を挙げると、今回の新刊『暗翳の火床』は532ページ。本文は18行*40字組だから720字、めちゃ大雑把に計算して720字*500ページで約36万文字はある。これを4000字で割ると90回分。

 そして元の原稿は4000字で小分けするなんて考えられていない。*5 そうしたものを各回それぞれ4000文字程度で適度に区切れる範囲を探してちまちまと分けていくのは実質手作業となる。これまでにオンラインに掲載してきた作品でも同じことをしてきたが、ながらでできない労の多い作業で、結果的に食指が動かなかったわけだ。

 

 またそうした作業とは別に、部内では有償頒布(冊子)と無料公開(Web)の期間が重なることによる、冊子売り上げの減少が懸念されていた。当然の心配だ。ただしこちらについては、僕が知る範囲では冊子とWebの両刀使いサークルが多いということは、そこまで危惧するほどではないだろうと、かなり楽観的に判断させてもらった。むろん蒸奇がこの手法を取るのは初めてなので、そこは蓋を開けてみないとわからないが。

 

  その楽観的な判断を後押ししたのが、『蒸奇都市倶楽部およびその長編作品が少しでも多くの方の目に触れる機会を』という皮算用だ。
 蒸奇は、というよりも僕は、もっと蒸奇の読者層を開拓したい。サークル本位で言えば知名度を上げたい。そのためには多少の無茶をして身を削ってもいいし、懐具合で言えば身銭を切ってもいいと思っている。

 もっとも採算を考慮しないのは特別なことではない。
 イベントで無償頒布しているチラシやポストカード、また頒価には反映していない挿絵などもこの考えの上に成り立っているし、さらに言えばあちこちのイベントに出展するのもこの考えが根本にあってのものだ(少なくともケチを自任する僕はそう考えている)。
 今回はそこにWebが加わるだけである。

 

 これらをなにに結び付けたいかと言えば、最初に書いたように蒸奇の読者層、畢竟するにサークルの知名度なのである。

 僕は蒸奇の作品が刺さる人に徹底的に刺していきたいと思っている。作者本位な言い分を書けば、分かる人に分かればいい、と。そしてそういった相手、蒸奇の作品が刺さる方に届けるためには、まず読者の母数を上げるのが次善の策となると考えた。*6
 その一環がBOOTHを利用した通販や今回の早い段階での Web化という施策である。

 

 常のごとく長々としたが、要約すると
(1)他のサークルさんを真似てみた
(2)もっと多くの人が作品を読める機会を

 この二つ。1ツイートで足りる内容を長文化するのは悪癖である。

 

 ともあれ、新刊『暗翳の火床』、あるいはWeb版『暗翳の火床』をよろしくお願いします。
 文庫のデータをそのまま転載するので、両者に異同はありません。Web化による横書きに合わせて改行位置は変わるかもですが。
 Web版はまた時期が来たら広報が告知してくれます。

 

 

 以下は推測に推測を重ねる。

 Webで無料で読む層と、イベントにまで足を運んで冊子を手に取ってくださる層は、ある程度は相補的につながっていると思う。もちろんWebで読みながらもイベントにも足を運んで本も読んでくださる「∩」な方もいると思う。有難い限りだ。
 しかし圧倒的に多いのはやはり前者だろう。母数を増やすには当然その前者の手が届く位置に作品を置く必要がある。そのための見せ金としての公開である。
 そうしておけば、「Webで無料で読む層∩イベントにまで足を運んで冊子を手に取ってくださる層」にも届く可能性もある。

 

 

 

*1:条件を満たす=必ず無料公開というわけでもない。

*2:オンライン小説という言葉がすでに懐かしく感じられる。

*3:冊子版掲載にあたり加筆修正や、おまけの書きおろしがついているなどの差異はある。

*4:=即座に電子書籍化できるような状態での作業体制となっていない。これについては長年の模索事項である。

*5:なので連載作のように4000字の間に盛り上げもへったくれもない箇所も多い。

*6:最善はピンポイントで届けることなのだが、個人で取れる手段は限られている。手を尽くさない理由にはならないが。