『おだまり、ローズ』『わたしはこうして執事になった』
おだまり、ローズ 子爵夫人付きメイドの回想
ロジーナ・ハリソン、新井潤美(監修)、新井雅代(訳)/白水社(2014)
わたしはこうして執事になった
ロジーナ・ハリソン、新井潤美(監修)、新井雅代(訳)/白水社(2016)
(20180106公開)
『おだまり、ローズ』
レディ・アスターことナンシー・アスター付きメイドの回顧録。ナンシーの夫はウォルドルフ・アスター。アメリカで財を成したアスター一族の五代目で、ウォルドルフ=アストリアの元の所有者。
ローズ(ロジーナ・ハリソンはこう呼ばれていた)がなぜ長続きしたのかは、彼女の回想からうかがい知るのは難しい。激しい言葉の応酬などがあっても互いの領域を侵しすぎない妙というのは、おそらく当人たちにしかわからないのだろう。互いの性格が良いように作用していたように思われる。
ひとつはっきりしているのは、ローズが十分に能力を発揮する場に恵まれていたということである。裏を返せば主人のナンシー・アスターにとっても恵まれた家であったろう。
ある屋敷では有能であっても他の屋敷ではそうとは限らないということもあり得る。人間関係、とりわけコミュニケーションが大事な仕事だ。相性があるのだろう。
『わたしはこうして執事になった』
使用人生活の中どこかでアスター家(もっといえばナンシー・アスター付きメイドのローズことロジーナ・ハリソン)に関わった人たちの回顧録のようなもの。彼らが述懐する各々の時代そのものが大英帝国の斜陽を示しているようであり、『日の名残り』の換骨奪胎のような雰囲気さえしてくる(と思えるが実際は逆である。イギリスでの原著刊行年を考えると『日の名残り』が換骨奪胎した方であろう。軽く検索をかけたら、『日の名残りの』スティーブンスはエドウィン・リーをモデルにしたようだ)。
短ければ一年長くても三年程度で奉公先を変えていく様は、真に仕える者を探し各家を渡り歩く浪人のような趣もある。
戦争は技術を革新させるというような話を聞くが、引き換えに文化や風習を大きく変えてしまうものでもあるのだなと。