『憑き物耳袋』
憑き物耳袋
倉光清六
もとは喜田貞吉を主筆とする『民族と歴史』*2 第八巻第一号(1922年7月)収録「憑物鄙話」。
そのまんま憑き物についてのあれこれ雑考というか論考というか。改題後の「耳袋」は江戸期の珍談奇談集からであろう。
なるほど、読み物としても面白く、類例や出典が豊富でしっかり蒐集された感のある誠実な論である。
狐憑きなどというのは迷妄である明断する著者の態度は一貫している。
かといってそうした迷妄の中で生きてきた時代や、そういうのを信じざる得なかった人々までも否定しているわけではなく、そうした事実があった(その中で生きた人々にとっては紛れもない現実であった)こと自体を記録として残そうというのが、著者の執筆の動機であることもはっきりと記されている。
現代(もちろん執筆時点=大正時代)においても、地方ではまだそうした狐憑きなどの話が現実として生きてはいるが、いずれは消えていくであろう(もちろんそれに伴う差別や婚姻の忌避なども一緒に)という見方も著者は示している。
ここに大正期の都会と地方の意識の差が現れているようで面白い。そうした当時のタイムカプセル的な部分がある。
もちろん本論となる「憑き物」に関しても、色々と示唆に富む読み物であった。