雑考閑記

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雑な考えを閑な時に記す

『オオカミの護符』『絶滅した日本のオオカミ』

オオカミの護符

小倉美惠子

新潮社(2011年12月15日)

オオカミの護符

オオカミの護符

 

(今は文庫版も出ている)

 

絶滅した日本のオオカミ――その歴史と生態学

ブレット・ウォーカー、浜健二(訳)

北海道大学出版(2009年12月25日)

絶滅した日本のオオカミ―その歴史と生態学

絶滅した日本のオオカミ―その歴史と生態学

 

 

オオカミの護符

 著者の実家にある真神の護符をきっかけに、御嶽講(武蔵)のつながりから武蔵の農家を訪ね歩き、自然と人の営みを探る。書名や書影には大口真神が示されているが、ニホンオオカミを求めたり、その生態を探るといったような本ではないのでその点は肩透かし。
 本書はお札(の発行元の社)をめぐる人々を追うドキュメンタリーのようなものである。(先に同名のドキュメンタリー映画があったようだ。)

 ニホンオオカミそのものの情報を求めていた僕からすると外れ。

 

絶滅した日本のオオカミ――その歴史と生態学

 僕が期待していた方向性としては大当たり。

 大陸から移ってきた狼がいかにしてニホンに住むオオカミとなったのか。誕生した経緯の考察から、古来の日本人のオオカミ観と変遷、たびたび起こる豺と狼との違いについて、彼らがいかにしてニホンオオカミとして定着したのか、そして彼らをめぐる環境の変化と現象、そして絶滅。

 著者は広範な文献を参照し、おおよその歴史をたどりながらニホンのオオカミが滅んだ要因を探っていく。なぜ彼らが姿を消したのか、狂犬病による駆除や山犬(豺ではなく、野生化した犬)との交雑など、その原因や要因らしきものを絞りこんでいき、最終的にはこれらの複合的な事象によって滅んだとされている。

 ニホンオオカミが吉野の山中で最後に捕縛されてからすでに110年以上。その捕縛にしたって、最後の一頭であったかは不明だ。ただ、それを最後にニホンオカミは捕まっていない。*1
 それらしき目撃情報や記録はあるが、信頼に足るものではなく、明治のころには絶滅したとされている。

 

 我々はつい「本当の原因」を求めがちで、しかもそれが何か一つの決定的な出来事によるものと考えがちである。しかし野生生物の絶滅というのは、たいていの場合おそらく複数の事象が絡み合って起こされるものなのだろう。*2

 ともかく、ニホンオオカミは同じく絶滅したカワウソに比べて、何かとロマンを重ねられがちな生き物である。その絶滅には間違いなく日本人が寄与しているにもかかわらず。

 

合わせて読んでほしい。

狼―その生態と歴史

狼―その生態と歴史

 

*1:環境省レッドリストで絶滅とされる条件のひとつは「過去長期間にわたり(例えば50年間前後)、信頼できる生息の情報が得られていない。」だ。

*2:だからこそ、人間が最後の一匹まで殺し尽くすケースは最悪のものだともいえる。