雑考閑記

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雑な考えを閑な時に記す

『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン(上下)』

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン(上下)

ピーター・トライアス、(訳)中原 尚哉/ハヤカワ文庫(2016年)

 

キャッチーな紹介文(日本が勝って、ロボットが登場して~)はほとんど内容と関係ないな。いや、内容の説明としてはけして間違っちゃあいないんだが、あの内容でむしろなんでそういう部分を強調したのか。
あと『高い城の男』も意識して読まなくていい。

ネタバレあり

(20170715公開)

全体的にテンポはいいし、命が安い世界なので好きだよ。キャラ良し、筋は悪くない。

でもなんか総合的にはあんまり面白くないんだよね。

色々なところから取ってきて付けたようで、全体として見るとシーンごとにちぐはぐで統一感が薄いというか。

日本人観に違和感を抱く人がいるかもしれないけれど、気質を上手くとらえているなと思った。(誰も誤りを指摘しないとか、基本的に長いものに巻かれるとか。)

対するアメリカ側も、キリスト教至上主義なところがあって、それが「自由」なの? と疑問を投げかけやすいところもある。
要するにどちらの側も「現実」からずれてしまっていて、その現実とのずれの合間に落とし込まれた世界がこの作品の舞台であるわけだ。両方とも「現実」との異相が生じていて、現在を照射しているんじゃないかなと。
民衆のたくましさは好ましい。

日系人が収容されていた事実からの出発って点が最も大事な部分だと思う。

彼らは日系人であるんだけれども、精神的、あるいは自覚的に己をアメリカ人だと思っているんだよね。でも日系人という理由で収容されてしまった。俺たちはアメリカ人なのに、って。
そんな彼らがいきなり皇軍に「お前ら日本人だから」といって解放されても釈然としないものがある。そうほいほいと切り替えられるものではない。だってお前ら今の今まで俺たちアメリカ人の敵だったじゃん。
これを描いた冒頭の(作中40年前の)エピソードがこの作品で一番面白い部分である。ここで描かれたものと、ラストで語られる、わかりやすいお涙ちょうだいとしてのオチは悪くない。ただ、あのエピソードが最後に来て驚くというわけでもなかった。順当な落としどころだなと。
しかしその間に挟まれている部分(本編だね)が、主人公にまつわる過去のエピソードと関連性があまりないように感じられて、なんかちぐはぐだなあと。

読み終わってすっきりする話ではない。各場面単位ではすっきりするのが少なくないのに。なんというか週刊連載っぽさがある。各回ごとには面白いんだけど、単行本で通してみるとそうでもないなっていう。

キャッチーな内容に反して本筋は小振りというか、人間ドラマに収束していく。だからこそキャッチーな内容いる? と感じた。

あと敢えて『高い城の男』と比較するのならば、こちらの不満な点は大きな世界についてほとんど描かれていないところだ。現在世界はどういった情勢で、どう動いているのかが少ない点描で示されるのみ。
『高い城の男』は全体的に日本側に舞台を置きつつも、ドイツ側の首相が死ぬという大きな状況が発生するので必然的に世界についての描写も増えてくるし、「イナゴ身重く横たわる」を通じて世界の予兆を示して終わる。なにより登場人物が多くて重層的なので視点も増えてくる。
一方の『USJ』は日本側が舞台で人物も主人公を除けばスポット的で、ゲームと主人公の周囲の現実にしか触れていない。これでは視点が限られてくるのもやむをえないし、しかも最後は家族愛に帰着(帰結)するからそこも閉じられている。

これらの作品を比較するのはよいことではないだろう。