雑考閑記

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雑な考えを閑な時に記す

関西2dayパスで乗る旅(後編)

 鈴蘭台でポイントを堪能した後は日本で最も新しい施設を見に行く。

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前記事

ks2384ai.hatenablog.jp

 

 

 

鈴蘭台 15:09(神戸電鉄)16:00 粟生 16:09(北条鉄道) 16:19法華口

 鈴蘭台から神戸電鉄で粟生へ向かう。日中の本数が30分から1時間に1本の末端部分であるが、学生の帰宅時間と重なりはじめたのでそこそこの乗降があった。

 

 終点の粟生は神戸電鉄とJRの加古川線北条鉄道が接続している。三つの路線が接続するといってもいずれもローカル線、大きな駅ではない。そして大きな駅ではないがゆえに、各鉄道の接続はしっかりと取られている。おおよそ1時間に1本、加古川線の上下線と北条鉄道神戸電鉄がやってきてはきれいに接続を取ってまたそれぞれ発車する。そしてまた次の1時間は何もやってこない。そんな駅である。

 実際この駅の接続は見事なもので、それは北条鉄道の時刻表を見てもらえればわかると思う。

www.hojorailway.jp

 朝夕の一部のイレギュラーを除いて接続時間は概ね10分以内となっている。ことにJRと神戸電鉄は他の駅で別の路線ともつながっているため、この駅の接続だけをきれいに整えればよいというものでもない。そうした制約の中でこうした短時間での接続が成り立っているのは見事というほかはない。

 こうした各社の努力により粟生での乗り換え時間は9分。駅を観察するにはあまりに短いが乗り換えには十分な長さだ。

 

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 跨線橋を降りるとちょうど北条鉄道のディ-ゼルカーが到着したところ。続いて加古川線の上下列車もやってくる。いずれの列車からも大量の高校生が降りてきて、各鉄道へ乗り換える動線が錯綜しホームがごった煮となる。

 私はその合間を縫って運転士にフリー切符の購入を申し出た。北条鉄道は関西2dayパスのエリア外。これまでさんざん使い倒してきた切符とは一時お別れとなる。運転士さんは慌ただしい折り返し時間の合間にフリー切符を手渡してくれた。フリーきっぷは840円。北条鉄道を粟生から終点の北条町まで乗り通すと420円なので往復すればトントンだ。今回は途中の駅で乗り降りするので元は取れる。

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 たくさんの高校生を乗せた単行のディーゼルカーは定刻に粟生を発車した。駅を出た列車は大きく西に曲がって網引駅へ。この駅には後で寄る。続いて田原駅を経て法華口駅に着く。北条鉄道での最初の目的地だ。

 

法華口駅

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 私以外に降りたのはみな高校生であった。というか私以外ほぼ高校生であったように思う。彼らは列車が出るのを見届けることもなく駅を出ていく。

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 一人列車を見送って隣のホームを見れば夕暮れの駅が私を待っていた。

 

 さて、この駅を目的とした大きな理由はその構造にある。

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 法華口駅は全線単線の北条鉄道にあって唯一の行き違い可能な駅だ。

 

 とだけ書けば何でもないようだが、実はこの行き違い設備、2020年に設置された日本で一番新しいものである(訪問当時)。*1

 

 といっても鉄道の信号や設備には詳しくないのでざっくり見ていく。

 

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 信号は二位式。

 

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 分岐器はスプリングポイント(=各方面ホームが固定)。

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 北条町方面ホームへの出入りはスロープのみ。降りたところを左に曲がればそのまま道路へ。

 

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 直接道路に通じる出口には鶉野飛行場跡地などの案内板があった。戦中に使われていた訓練用の飛行場だが、訓練中の飛行士の中から特攻隊が編成されここを離陸していった。また、この飛行場を離陸した飛行機は列車の脱線事故も引き起こしているのだが、それは後述する。現在は滑走路や掩壕などの付随施設が残っていて公開されている。

 

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 駅舎側(粟生方面ホーム)とをつなぐ構内踏切。ちょうど正面に夕日。

 

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 駅舎と旧ホーム。

 

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 粟生方の分岐器。

 

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 旧ホームの一部が列車に支障する(列車の角がホームにぶつかる)ため切り欠いてある。

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 構内踏切より各ホーム。

 

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 上下線の間には乗務員用の細いホーム。ここを介して通票(行き違いをした証拠となる手形のようなもの。北条鉄道ではICカードを使用)を渡すようだ。(下の記事参照)

www.sankei.com

 

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 粟生方面ホームは後方がそのまま駐輪場や駐車場につながっているためスロープはない。

 

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 構内踏切から駅舎と旧ホーム。電話の箱や古いベンチ、白点線など、おそらく国鉄時代のものがそのまま残っている。

 

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 粟生方面ホームから北条町の方を臨む。

 

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 ホームの後方からそのまま線路脇に降りられる。

 

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 行き違い設備整備にあたって資金を拠出した企業の碑。

 

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 ホームを見て回っていると山の端に日が沈んでいった。

 

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 旧ホームには上下線の時刻表。行き違い設備の新設とともにダイヤ改正(要するに旧ホーム使用停止の翌日)だが、もう使われないホームにも律義に掲げられている。

 こうして上下列車揃いの時刻を見ると、法華口駅でいつ行き違いが行われているのかがよくわかる。発車時刻が近いのがそれで、平日は朝5本、夜4本の計9本。土休日は0本、行き違いなしだ。

 この平日と土休日の差から(行き違い設備新設による)列車の増発は朝夕のラッシュ対策であるとわかる。とりわけ自家用車を持たない学生の通学の便を確保するのが大きな目的であろう。

 現に粟生駅からの列車では多くの学生が列車で帰宅するのを見ている。地方では学生が時間をつぶせるような店や施設も多くはない。増発により列車の待ち時間が減るのならよいことだろう。

 

 趣味の観点からすると単なる新設の行き違い設備にはすぎないのだが、それを置くとここには自身の足(自家用車)を持たない者の利便性確保に努めるという公共交通のもっとも基本的な在り方があるのだ。

 私のような乗るのが好きな人間などというのは、そうした公共交通の本来の用途に勝手気ままに便乗させてもらっているだけにすぎない。私が平日にあちこち乗りに行くのが好きなのは、そうした本来の地域の足としての公共交通の在り方に混ざりたいからかもしれない。

 

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 古い駅名標。よく見ると下地に右書きの跡が残っている。

 

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 二番目に古い駅名標

 

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 旧ホームから新ホームを見る。

 

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 駅舎の横にある三重塔は、駅名の由来となった法華山一条寺にある三重塔(新国宝)の縮尺模型だ。

 

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 残照を浴びて輝く三重塔。いい時間に来たものだ。

 

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 三重塔と駅舎。縮小模型と言いながらその大きいこと。平屋の駅舎より高い。駅舎と三重塔の間にあるのはお手洗い。駅舎ともども実に模型的なしつらえだ。

 

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  駅舎側の新ホーム入り口と、構内通路を駅舎側から。

 

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 もう列車はやってこない。

 

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 しかし駅舎にはパン屋が入っており、待合室ともども古い建物やホームは健在である。もっとも訪問したのは金曜日でパン屋は定休。

 

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 駅舎内の待合室。パン屋が空いていればイートインできるのだろう。テーブルシートも敷かれて小ぎれいに整っている。

 

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 駅ノート。全国の駅ノートを書いて回る趣味の人もいると聞いたことがある。趣味の世界は本当に間口が広い。

 

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 法華口駅近くを通る神姫バスの路線案内と時刻表。神姫バス丹波、播磨地方の重要な足。

 

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 駅からの運賃表。ほぼ真ん中。終点までどちらに乗っても310円。

 

法華口 16:52北条鉄道)16:57 網引

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 さて、名残惜しいが粟生方面行の列車がやってきた。

 新設された設備を見るという趣旨ならば、肝心の行き違いの様子も見なければ片手落ちだが、あいにくと冬の夜は早い。次の行き違いまで待っていると日が沈んで何が何だかよくわからなくなる。というわけで今回はここらで切り上げたいと思う。

 ただ北条鉄道自体にはもう少し乗る。

 

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 綱引と書いてしまいそうな網引駅へ。

 

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 趣ある駅舎と立派な駅名表示。

 

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 駅舎の脇にはペットボトルで作ったクリスマスツリーならぬ「思いのツリー」が。駅舎内に短冊があって、そこに願い事を書いてペットボトルの中に封入するという仕組み。(七夕?)

 

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  1945年3月30日、鶉野飛行場を離陸した飛行機(紫電改)が近くに不時着。その際に飛行機の車輪がレールを歪めてしまい、間もなく通過した列車が脱線し乗客11人が死亡、104人が重軽傷を負う大きな事故となった(飛行士も死亡)。しかし大戦末期という時節柄、軍の飛行機が引き起こした事故ということは公表されず、新聞に数行の記事が載っただけであったという。

 

 さて、この網引駅で有名なのが大イチョウである。

 

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 それがこれ。残念ながらとっくに落葉し、地面も掃き清められているが、幹と枝の荘厳さだけでも一見の価値はある。

 

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 高さ21メートルというからおよそビル7階分。

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 駅舎内にはそのイチョウの写真が日付付きで掲示されている。

 

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 落葉時にはこのように黄金のじゅうたんが敷かれる。

 

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 駅舎内は寄贈された本が並べられゆっくり時間を潰せるようになっている。机の上には大きな松ぼっくりが置かれている。壁には国鉄時代の古い写真。

 

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 行き違い設備の完成を祝した切り絵も貼ってあった。車両にはホームに飾られていたヘッドマーク(この記事の写真一枚目)も取り付けられている。

 

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 こちらはイチョウの切り絵。見事なものである。

 

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 駅舎の照明は利用者が点滅させる。こういう手作り感というか、利用者に一部をゆだねるスタイルは大好きだ。こういうのは利用者に駅舎が共有物という意識を与え、ひいては公共交通への愛着にもつながるのではないだろうかと思う。

 

網引 17:13北条鉄道)17:32 北条町

 

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 再び粟生で折り返してきた列車に乗って終点の北条町駅へ。

 

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 古い書体の駅名標

 

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 北条ふらわの立ち看板や合格祈願ポスター。かわいい。

 

北条町 17:45北条鉄道)18:08 粟生

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 このマーク懐かしい!

 シルバーシートという言葉を何十年ぶりかに思い出した。お年寄りのならず体の不自由な人や妊婦なども含まれるようになり優先席という言葉に置き換わってしまった。そしてこのマークも僕の生活圏では全く見かけなくなった。

 

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 ちなみに北条鉄道のフリーきっぷはこちら。これ自体は「引換証」らしいのだがこれだけでも乗り降りできた。(今回の旅程では北条町駅まで行って引き換える時間が最後しかなかったし、結局そこでも引き換えていない)

 

 北条町駅からの列車の乗車率は6割ぐらい。この一本後から行き違い開始だが、もう真っ暗であるし帰りの新幹線もあるのでまっすぐ帰る。ボックス席を確保できたのでうたた寝しているうちに粟生駅

 

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 Ao。ローマ字表記で最も短くなる駅のひとつ(母音だけで構成される駅は他にも複数ある)。

 

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 窓口の営業時間。3回の休憩(?)*2 がある。

 

 余談となるが北条鉄道には近々新車(といっても他社から買い入れた中古)が入るようだ。

web.archive.org

 

粟生 18:25神戸電鉄・普通)19:18 鈴蘭台 19:19(神戸電鉄・急行)19:32 新開地(以遠略)

 再び関西2dayパスを使い神戸電鉄で新開地へ、梅田を経由して新大阪へ帰った。

 

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 ところで神戸電鉄のこの車両は赤帯の巻き具合がウルトラマンを連想させる。

 

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 高速そば。残念ながら2021年6月いっぱいで閉店となってしまった(ゴールデンウィークごろから休業が続いていたようだ)。

 

 というわけでバスや鉄道を乗ったり降りたり、フリーきっぷのフル活用した1日であった。

 

 

*1:もともと国鉄時代には交換設備があったため正確には「復活」。とはいえこれから見ることになるが、交換設備やホームは新規に設置。

*2:おそらく駅員の交代か他業務が入るための休止だろう。