雑考閑記

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雑な考えを閑な時に記す

第8回テキレボにかかる上京記(2019年3月20日:1日目:富士山とモノレール)

 3月21日(木祝)開催の『第8回Text-Revolutions』(以下、テキレボ)に参加するため、20日(水)から24日(日)までの五日間ほど旅の空に出ていた。21日(2日目)のテキレボそのものについては、蒸奇都市倶楽部の売り子として参加していたので、サークルとして書けることはそちらのイベントレポートに譲る。


 

 こっちではテキレボのサークル参加者分を除いた上京の各日についてだらりと記していく。

 というわけで出立の20日(1日目)から。
 見所は富士山と上野動物園のモノレール。

 

3月20日(水)

出発から

 満月も冴える早朝に家を出発。寒かったのでインナーを着てきたが、歩き出せば少し汗ばむほどであった。が、じっとしているとすぐに風で冷える。着るものの調整が難しい気温と風だ。

 早朝に特有の時間ぎりぎりの乗り換え(乗客が少ないから、乗り換え時間が日中より短めに設定されている)をいくつか済ませて列車を乗り継いでいく。空が紫色に薄明るくなってきたのはおおむね5時30分ごろで、車中から太陽を拝めたのはかなり日が昇ってからであった。太陽が盆地にきれいな山影を作り出している。
 よく晴れていて、この調子ならば道中の富士山もくっきりと見えるだろうかという期待が高まる天候だ。
 思うにきれいな富士山を見たのは何年前だろうか。僕の経験則に『富士山1割説』というのがある。富士山の全容を綺麗に拝めるのは、東京と静岡以西を10回移動したらせいぜい1回というものだ。ここのところは曇りであったり、山頂付近に傘雲がかかっていたりというのが続いていたので、この謎の経験則に照らしてもそろそろ見えてほしいと期待するばかりである。

岐阜愛知静岡

 中京圏は新快速一本で抜けてしまう。といっても今日は平日で、名古屋付近では朝ラッシュにかかる時間なため、乗車した新快速は岐阜から名古屋にかけてはのろのろとした走りっぷりであった(休日ダイヤと比べると、始発駅時点では同時刻発なのであるが、終着駅時点で20分近くも遅くなる)。
 車内には通勤客が多いのでお行儀よく座っていたが、朝早かったのと、速度がないのとでいつしか眠りに落ちた。

 安城を出たあたりで目覚める。通勤客はほとんど降りてしまっていて、空席が目立つようになっていた。そうなってくると、18きっぷ利用者らしき人がそこそこ乗っているのに気付く。輪行の若い人々のグループはある駅から僕と同じ乗り継ぎをしているので恐らくそうであろう(こんなに長い区間を普通は乗車券で乗ったりはしない)。人が減ってゆったりした車内で地図を眺め合って何か話し合っている。おそらく今日のコースについてだろう。どこかの大学の自転車部かもしれない。
 大荷物を抱えた若い人もおそらく18きっぷ利用者であろうし、リュックを背負った年配の方もそうであろう。こうした人々が各車両に5、6人はいただろうか。もちろん私自身もその中の一人であるのだが。僕が乗った新快速は各地各線からの接続が良い列車だったので、こうした客が集まりやすいのであろう。
 列車はきびきびした走りを取り戻して豊橋へ。

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浜松までの列車は311系のトップナンバーであった。1989年デビューの、今年でちょうど30歳になる車両だ。

 豊橋~浜松~静岡~沼津・三島~熱海のいわゆる静岡区間というのは18きっぷでここを横断する人には苦痛のように言われるが、僕は列車に乗っていれば幸せな性質なので苦痛と感じたことはない。各主要駅間の所要はおおむね1時間ほどで、そうした駅で乗り換えが2、3回ほど発生するので、それが良いアクセントになっているというのもあるだろうし、そもそも別に毎日この区間を乗り通しているわけではないのだから、飽きようはずもないのである。
 地元の方と18きっぷ利用者が3両を基本とした編成に詰め込まれるので、混雑しやすい区間ではあるが、荷物を荷棚にあげて身軽にさえなってしまえば、あとは外でも眺めておればいいのである。東海道本線といえども意外と変化に富む車窓であるので、私は見飽きはしない。もっとも最近の人はスマホなんかで時間潰しをするだろうから、苦痛ということもあまりないかもしれない。

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静岡で乗り換えた車両の連結部に鳥(おそらくハクセキレイ)が

富士山

 静岡(正確には興津)を出たあたりから前方が気になりだす。

 ずっと気持ちよく晴れている中、視界にちらりと白いものが映る。雲ではない、富士山頂付近にかかる雪である。薩埵峠のあたりから前方に見事な秀峰が姿を現した。

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 惜しみもなく全容をあらわにしてくれた富士山に感無量。雪をまとった状態の、誰が見ても富士山という雄大な姿に大満足である。
 これが今日のクライマックス。沼津付近で愛鷹山に阻まれるまでずっと興奮して眺め続けていた。

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 それにしても地元の方はすっかり慣れきっていて、さすがというべきか、富士山がくっきり見えるのにもかかわらずまるで興味を向けず思い思いに過ごしていた。他の旅人もほとんど外を見ていない。なんだかすこし寂しい。

上野東京ライン

 熱海で乗り換えれば上野までは一本で済む。以前ならば東京で山手線か京浜東北線に乗り換えて上野に出ていたところである。大荷物を抱えているのでこういう時に直通化は助かる。上野東京ラインの恩恵に初めて浴した気がする。

 小田原を過ぎたあたりでうとうとし始めて、目覚めれば品川であった。


上野動物園

 大荷物を抱えたまま恩賜上野動物園へ。ケチなのでロッカーに預けるという選択肢はない。

 非常(非情)な陽気で、上着を脱いで半袖になったものの非常に汗ばんでしまう。朝と同じで肌に心地よい風が吹いているのだが、歩いていると風で冷める間もないほど熱気がこもるほどの好天だ。

 平日であるにもかかわらず、上野恩賜公園は盛大な人だかりで、みな薄着になって様々な列を作り出している。

 さて、本日3月20日上野動物園の開園記念日ということで、動物園が無料開放されている。そのためか平日であるのだが、園内にも様々な客層が入り乱れていて黒山の人だかりができている。

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 パンダは見るまでに80分待ちの札が出ていた。
 別にパンダを見に来たわけではない。関西でも見られる。
 3月15日に運行が再開された上野のモノレールに乗りにやって来た次第である。*1

 現存する日本最古のモノレールへの乗車が主な目的であったので、無料入園日は非常に助かるわけだ。モノレールに乗るためだけに入園料を払えるかと聞かれると、ケチな僕は「うん」と気持ちよく云えない。
 テキレボ前日が開園記念日というのは実に奇跡的な配列であった。

 上野動物園モノレールは2019年10月末での運行休止が決まっており、その後の処遇は未定だ。
 モノレールを運行する東京都営交通は今後の方策を検討するとしているが、休止されたまま廃止される可能性も十分にあり得るので、無料で中に入れる今日乗っておこうという魂胆である。

www.kotsu.metro.tokyo.jp

 無料日だからか、元から人気なのか、かなりの数の人がモノレールを待っていた。乗るまでに40分ほどかかった。上野のモノレールは単行のピストン運転で定員もあまり多くはないのだ。

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 東園駅から乗ったのであるが、ここの乗り場は切符売り場と同じ階の反対側にあるため、モノレールの乗客は車両が東園駅に向かっている間に、係員の案内でモノレールの動線を横切って乗り場に移動する。(直下写真、柵が途切れているところを横切る)

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 いってしまえば構内踏切を渡るようなもの*2 であるが、モノレールでこんな体験ができるとは思ってもおらず、なかなかに面白い体験であった。
 ちなみに東園駅の降車客は降りた後に車止めの後ろを通って出ていくので軌道を横切らない。また、西園駅は1階が切符売り場で2階が乗り場となっていて、乗車客も降車客も同じ側から乗るので、これまた軌道を横切らないで済んでしまう。跨座式モノレールの軌道直下を通れるのはおそらく東園駅だけではないだろうか。

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 待ち時間に比すれば、片道150円約3分の乗車はまことあっという間に感じられた。

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上野動物園のモノレールは一見すると園内の遊技施設(アトラクション)のようであるが、地下鉄や都バスと同じ東京都交通局が運行するれっきとした公共交通機関である。そのためか駅に地下鉄の路線図が張り出してあった。正式名は東京都交通局上野懸垂線。上の切符には「東京都懸垂電車」とある。

 途中で多くの人がモノレールに向かって手を振っており、車内からも手を振る人がおりで、立派なアトラクションとして受け入れられている様子が見られた。

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 もう1度乗りたいところであったが、人が多く並んでいて何本目に乗れるのかわからないので、外から1往復分の写真を撮って、不忍池で鳥を見てから動物園を後にする。

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左からカワウ、カモメ、園外のユリカモメ。

 ところで僕は関西の出身で、都心部にある動物園といえば真っ先に思い浮かぶのが天王寺動物園である。この2つの動物園にしてもそうであるが、天王寺駅上野駅の頭端ホームがある感じや、浅草と新世界、山谷と釜ヶ崎など、いくらか似た点があると勝手に思っていたりする。

宿、宿から少し外出

 上野からは都バスで山谷の定宿へ。
 まだ外が明るいうちにチェックインを済ませ、目的のものを買うためすぐに外出。御茶ノ水駅から徒歩で神保町へ向かい、書泉グランデで西武、東武小田急の時刻表を買う。いずれも3月16日改正の最新号だ。興味がない人にはぴんと来ないかもしれないが、書泉グランデは鉄道系書籍の聖地とされており、ここに行けばほとんどのものが揃う。(一部の鉄道系同人誌や大学鉄道研究会系の会誌も取り扱っている。)

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△一連の戦利品の中での最大手である。

 再び御茶ノ水駅まで歩いて、秋葉原でミルクスタンドへ。総武線ホームにあるあの店だ。秋葉原で乗り換える時には絶対に行く店で*3、今回は濃厚クラウンと飛騨牛乳を選んだ。一本150円でしめて300円。コクと深みのある味わい深い味だ。

 色々なものが移ろい変わりゆく秋葉原であるが、この店だけは変わらず続いてほしいと思う。

 山谷に戻ってもまだ19時。近くにある喫茶『カフェ・バッハ』へ。テキレボの時には可能な限り行く*4、私が知る限りで最上級のコーヒーを出す店だ。

 私は別にコーヒー通ではないし、コーヒー屋をやっているわけでもないが、斯界に通ずる者ならばまず押さえておきたい店の一つでもあるという。
 今回は深煎りのマラウィ・ヴィフヤをいただく。深い苦みとコクが溶け合う口当たりで飲みやすく、すぐ空にしてしまった。何かケーキでも、と思ったが閉店1時間前を切っていたので、これというものがなかったのでコーヒーだけで済ます。

 宿近くのまいばすけっとで3日分の食料を買い込む。

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イベント打ち上げとその後の追い飯を除き、三日目の朝までこれがすべて。

 山谷という場所柄、コンビニやスーパーのすぐ近くにはお酒を手にした年配の方が多く、少し歩くだけでも歩き煙草をしている人を両手で数えられるほどに見かける。
 私は煙草の煙が苦手であるが、こういう猥雑な下町の感じがすごく好きである。

 宿に戻り早々に風呂をすませててに21時前であった。こんなに早く落ち着いているのはめったにない。
 ニュースで靖国神社の標本木が取り上げられていた。大勢の人が見守る中、気象庁の職員が標本木の桜を念入りに確認し、花がまだ4輪しか開いていないので開花日ではないという。なんでも5輪以上でないと開花ではないのだそうだ。もっとも明日も今日のような陽気だそうなので、早ければ明日にでも開花宣言が出されるだろうとの由。
 ただ、明日の天気は曇り、場合によっては雨だと予報されている。明けてみなければわからない。
 22時には就寝。
 道中の車内でうとうとしてしまうことが多かったので、テキレボ前にしっかり睡眠を取っておきたい。早く起きて久々に設営から参加したいというのもある。最近は各イベントで設営に参加できていないので。

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宿の部屋。布団を広げるとまさに寝るための部屋とかすが、かえってそれが良い。

未明の目覚め

 と思っていたら早く寝過ぎたのか未明に目覚める。
 なかなか寝付けないのでテレビをつけると、始発物語という番組をやっていた。
 各駅の始発利用者にインタビューするという内容らしいが、なんと東武浅草駅の回である。すぐそこにあるし、なんなら明日は外観を見る駅をテレビで見るのは不思議な感覚だ。

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 番組によると1日の利用者は4万9000人だそうだ。これは関東の大手私鉄の本線始発駅としては京成の上野駅に並ぶ少なさではないだろうか。まあ、北千住乗り換えや半蔵門線直通(東武)、日暮里乗り換えや都営浅草線直通(京成)が便利だからねえ。
 そういう意味では高田馬場がある西武の新宿駅も似たようなものか、と思って帰ってから調べたら10万人は超えていた。JRの駅から外れてはいても、新宿という地の利は強いか。

 番組が終わったので再び消灯して横になる。

 断続的に寝ては覚めてを繰り返すが、それでもしっかり眠るのに集中しやすい環境だ。3000円ちょっとの宿で畳三条だからだろう。たとえばこれが宿泊料が高かったり、部屋が広かったり、内装の凝った旅館だったりすると、僕はなかなか寝付けないはずだ。低価格のほとんど寝るための三畳一間だからこそ、しっかり横になって過ごせるわけである。缶詰をするなら気の利いた旅館なんかよりも、こういう部屋の方が断然に良い。

 

翌日へ

*1:3月15日に公開されたニホンライチョウも目的であったのだが、こちらの公開は12時までなので間に合わない。

*2:ここのモノレールは跨座式なので「高架をくぐる」が正しい表現かもしれない

*3:行くべき場所が東京にいっぱいある

*4:行くべき場所が東京にいっぱいある(2回目)