雑考閑記

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雑な考えを閑な時に記す

それでも上京したやつの話(2019年10月13日:3日目:台風一過)

 イベントはなくなったのに東京へ行った男の話の3日目。
 台風が去り、さっそく行動を開始する。

 

10月13日(日)快晴(憎いくらいに)

 

 

朝の散歩(1回目)

 5時30分ごろ、目覚める。

 旅先での睡眠時間はいつも短い。寝ても2~3時間で目覚めてしまう。
 シャワーを浴びて外の様子を確認。薄明の空には雲一つない。本もほぼ読み終えてしまい、宿でじっとしていてもすることがないので、少し街の様子を見ようと散歩の準備。

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  宿から南千住駅への途上、山谷のおっちゃんたちは普段通りの姿、カップ酒や缶ビール、タバコを片手にぶらぶらしている。そしてコインランドリー前で朝の酒盛りを開いて賑やかに談笑している。その姿を見てコンビニが開いたのだとわかった。見立て通り泪橋のローソンが開いていた。一方でセブンイレブンは9時からの開始という張り紙で閉店中。


 ここでカメラを宿に忘れたのに気づく。

 普段から持ち歩く習慣がないから気軽な気分で出かけるとこういうことがよくある。携帯も同じだ。前時代人間。なのでわざわざ取りに戻らなくてもいいかなと思い南千住駅の方へ向かう。


 墨田川駅のレールはことごとく錆びていた。昨日は貨物も運休していただろうから、それでだろう。レールは一日ほど列車が通過しないだけで錆びてしまうものであるから、それ自体に驚きはしないが、東雲の空の明かりを返さない朝のレールはどこか新鮮であった。もう少し待てば朝日の下の輝かないレールが見られるのだと思うと、いまさらになってカメラを持ってこなかったのを後悔。しかし取りに戻るのも面倒なので先へ行く。

 

 南千住駅では各線(JR、東京メトロ、TX)の改札もきっぷ売り場も閉まっていて、台風の爪痕を示していた。ただ東京メトロの改札にはすでに職員が詰めていて、なんだか運転が近いよな雰囲気をかもしている。改札前には荷物を持った人がぼつぼついて、いつか分からない運行再開までの時間を潰しているようだった。


 東京メトロ日比谷線の千住検車区(車庫)へ。

 一部の編成は通電を開始しており、すでに「中目黒」の表示を出している。運転再開が近い気がした。そもそも地下鉄だから、線内運転だけならばよほどの被害がない限りは可能なはずだ。

 そんな姿を見て、ここでもカメラを持ってこなかったのを後悔する。しかしここまで来て引き返すのもやはり面倒だ。

日常へ回帰する河畔

 墨田川の堤防を上る。日曜日で散歩やジョギングの人が多い。
 水は低水路を流れている。しかし遊歩道はかなり濡れている。昨日の墨田川の最大水量はわからないが、おそらく高水敷まで水が上ってきていたのだろう。その高水敷にも人が歩いていて、なんだかすっかり日常的な光景。

 と、川向うから列車のジョイント音が聞こえてくる。京成線だ。

 出る前に見たニュースでは京成の本線のみ始発から運行との情報が出ていた。他の首都圏の路線は例外なく始発から運行を見合わせ、安全が確認され次第の順次運行となっていたなか、なぜ京成だけが、と思ったが成田空港がある関係なのだろうか。いずれにせよその鉄路の音も日常が戻ってきたと告げているようだった。

 

 そう、いまは非日常から日常へと戻りつつあるさなかなのだ。
 そうした光景も記録しておかなければならないと強く感じ、やはりカメラを持ってこなければ、と後悔した。ないものねだりであるだけかもしれない。
 いずれにせよ一度宿へ戻り、カメラを手に戻ってくると決める。

 

途中のセブンイレブンには店員がいて開店の準備をしていた。近場ではすでにローソンが開いていたが、この開店の数時間の差で両者に結構な売り上げの違いが出ているのではないだろうかと、余計なお世話ながらに思う。

朝の散歩(仕切り直し)

 宿へ戻りとりあえず腹ごなし。この天気なら食べ物を溜めこむ必要もなさそうなので、残っていたグミとシュークリームと杏仁豆腐を食べて部屋の冷蔵庫を空にして、すぐに外へ。

「う」の字に見る水陸運

 さっきとは少し違う経路、南千住の汐入から墨田の河岸へ。ここいらは隅田川が「う」の字型に曲がる箇所の内側で、明治期から昭和の中ごろまでは水運至便の地として多くの工場があった。

 その工場群で特に有名なのがニチボウとカネボウだろう。どちらも紡績会社であるが、これはもともと南千住に官営の千住製絨所があったことと関係があろう。この地にて初めて国産の羊毛紡績が行われた。実際の製絨所跡地はもっと線路を超えたもっと上流側で、現地には煉瓦壁には羊毛工業発祥の地の説明文がある。
 他に東京ガスの千住工場も有名であろうか。いま工場はないが東京ガスの千住営業所があって、ガスタンクも置かれている。千住のガスタンクは『断腸亭日乗』でちょくちょく書かれるガスタンクと同じ位置にあり続けている。当時は球形ではなく円柱形であっただろけど。

 

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 墨田川から工業用水が取りやすく、かつ(明治期は)市街地化もされていないので土地代も安い(昨日分の記事でも書いたように、もとは氾濫原でもあることも関係がある。)と、工業地として良い条件がそろっていたのだ。

かように一帯は古くから河川(入間川→荒川→墨田川)の影響を被る湿地帯、氾濫原で、元来は雨が降ればすぐ水があふれるような地域なのである。それが今のような宅地として拓けているのは江戸以来の治水の賜物といってよい。

それでも上京したやつの話(2019年10月12日:2日目:宿籠り) - 雑考閑記

 この他に東京板紙社の工場もあり、ここは板紙(ボール紙)発祥の地の記念物が立っている。

 

 墨田川駅が設けられたのも、鉄道と船との貨物の積み替えが容易だからだ。*1 常磐炭田の石炭を常磐線で運んできて、貨物駅で積み替えて都内の各所へ送り出していた。そもそも東京ガスの工場があったのも、ガスの原料が石炭だからに他ならない。*2

 この辺りの工場群でも山谷の人々が働いていた、と言う話を聞いたことがあるがどこまで本当かはわからない。ただ、オートメーション化が進む前の貨物駅などではいかにもありえそうな話であるとは思う。

天気はまさに台風一過

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 すでに6時半を過ぎてすっかり日が昇っていた。

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 雲ひとつない快晴である。

 太陽が照り付けて朝からそこそこ暑い。台風の名残のような強い風(海風? 川風?)が吹いていなければ汗をかくほどだ。半袖なのにすでに脇の下が湿り始めている。しかしやはり天気は良いので、早朝よりもさらに散歩やジョギングなど逍遥する人が多い。

 

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 河原の土手の植え込みが何本か根元から折れていた。台風の爪痕だが、この他には特に大きな被害はないようだった。

 

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 びしょ濡れの高水敷。

 

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 水の多い川の上流から木々がどんどん流れていく。

 

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 太い流木の上に何羽かのカラスが乗って飛び跳ねていた。遊んでいるのだろう。

 

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 自衛隊らしきヘリが北へ飛んでいく。災害救助だろうか。

 

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 上流から何か動くものが流れてくる。それがなにか視認できる位置まで来て我が目を疑った。

 

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 鳥だ。鳥が川の真ん中を流されていく。見たところ水鳥っぽいのだが飛び立つでもなく、川の流れでくるくると身を回らせながら、しきりに首を振って周囲を見ている。足を何かに挟まれているか、風に飛ばされて何かに衝突した際に翼が折れたか、いずれにせよ首の長い鳥は私の目の前をすーっと下流の方へと流されていく。

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 その間、結構な数の人が土手の上を歩いていたが、誰も気づいた様子もなかった。なぜ彼らはこういう光景に気づかないのか不思議だった。別に私自身の目端が効くとか、彼らが鈍感だとか、そういうことで非難しているのではない。成すすべなく見るしかできない自分に無力感を覚えたとか、誰かに助けを求めたかったとか、そういうヒューマニズムも持ち合わせていない。
 ただ、鳥が流されていく様を誰かと共有して話したかっただけである。それを猛烈な台風の惨禍として記憶しておくために。

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ふと足元を見るとカニが上の方まで登ってきていた。

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 よく見ると、水が引いたおちこちでカニが動き回って砂団子をこねている。カニに気づいた人もいないようで、みんなただ堤防を歩いている。これは彼らの鈍感さ、気付かなさを少し下に見て言っている。

 しばらくカニを見てから上流、南千住駅へ向かって散歩を再開。川向こうでは相変わらず京成がよく走っている。やがて南千住の三つ(上流側からJR、TX、メトロ)の鉄道橋梁が見えてくる。

 

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 と、その上を轟音をとどろかせながら銀色の車両が北千住方面へ通過していくではないか。日比谷線の車両だ。すでに運転を再開しているのか、再開前の試運転か。

 

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 すぐに反対方向の電車が鉄橋を走り抜ける。試運転なら同じ編成で北千住を折り返させるはずだ。ということは、すでに運行している確率が高い。

 

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 南千住検車区の留置線にはすでに何編成かの「空き」ができていた。

 

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 駅へ向かって歩いている間にも「回送」表示の編成が、高架の南千住駅へ向けて出庫していく。間違いない、運転再開だ。

再開のメトロ

 果たして東京メトロ南千住駅は改札を開けていた。

 駅員によると、メトロは7時ごろに全線で運転を再開したらしい。もっとも間引きや遅れがあるとのことであったが。また各線の乗り入れ先までは走っていないとのこと。要するに日比谷線ならば北千住まで、半蔵門線ならば押上までで、そこから先の東武線への乗り入れは打ち切っている。これは東武がまだ運転を再開していないからだろう。これは乗り入れ先が運転を再開しないことに始まらない。
 メトロの隣のつくばTXはまだ運転を再開していないが、駅の電光掲示板には8時過ぎの秋葉原行きの表示が出ていた。それぐらいの時間を目途に運転を再開するのかもしれない。

 

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 一方のJRは早朝と変わらず閉鎖されたままだ。こちらはニュースで報じられていた通り昼過ぎまでは運休のままだろう。私鉄よりも範囲が広く路線も長いので運転まで時間がかかるのは仕方がない。おそらく山手線から順次に運転していくと思われる。

 南千住駅前のマクドナルドにはそこそこ人が入っていた。

 

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 墨田川駅の鉄路はまだ錆び着いたままだ。知らない人が見れば廃線になったのかと思うだろう。テレビでは客を運ばない貨物がどうなっているかまではやっていなかった。

 

 陸橋の下では都バスの南千住営業所から東42甲系統が出庫していくところだった。

 都バスも走り始めているのがわかったので、この後の予定のために営業所でバス一日乗車券を買っておく。600円。一乗車が220円なので3回乗れば元は取れる。

 

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 休業中のセブンイレブン。珍しかろう。

 

浅草に出よう、思いつきで

 8時過ぎに宿に戻る。すでに汗をかいてシャツが濡れていた。着替えを持ってきているとはいえ、10月中旬にこうも発汗するのは意外だ。それだけよく晴れていて日差しと熱、そして湿気があるのだ。
 ニュースによると関東はすでに強風域から出ていた。九州を丸々呑み込むほど巨大な円からは完全に脱したのだ。台風は宮古の沖合250kmほどにあるという。ほぼ列島からは去ったとみていいだろう。強大な爪痕を残して。

 在来線はまだ動いていないようだ。一方で上越新幹線が9時半過ぎから運行再開の見込みである旨を報じていた。

 このあと東武沿線に住む友人の家に行くことになっているが、まだ動いていないので動くまで時間がある。引き続き宿でだらだらしようかと思う。

 

 汗を流そうとシャワーを浴びに出ると、隣室の海外客がちょうど宿を出ていくところだった。大きな荷物を背負って観光再開といった風情である。ベランダから晴れた空を見て「good weather」というので、「good wind」と返す。
 彼ら彼女らとは「サヨナラ」といって別れた。

 海外の人はよく「サヨナラ」と口にするが、あれは発音しやすい部類の言葉なのだろうか。それとも別れの挨拶ぐらいはせめて現地の言葉で、という日本人にもよくあるあれと同じ心境からの言葉なのだろうか。そういえば別れ際の「バイバイ」はすっかり日本語のように定着しているが、あれは英語だった。

 

 宿を出ていく彼らの姿を見て、こんな晴れた日に宿でじっとしているのはもったいない気がしてくる。昼まで3時間以上もあるし都バスも動いているのならば、上46系統で上野へ出てみるのもいい。
 台風一過の上野公園でもアメ横でも電車が走らない非日常の上野駅でもいい、ともかくどこかへ行ってみたかった。


 どうせ汗をかくだろうから同じシャツを着て身軽な装いで宿をまた出る。と、上野へ出る前に浅草へ寄って東武の情報を仕入れるのもいいなと思ったので、東42甲で寄り道をする。バスの一日乗車券を持っているので経路はいくらでも組み替えられる。

墨田川橋梁の将来

 東武浅草のバス停で降りてから電車の高架を見てふと思い出す。
 そういえば東武の墨田川橋梁のそばに遊歩道をかける計画があるんだったな、と。

 

東武隅田川橋梁に歩道橋新設 浅草~スカイツリー間で最短ルート整備、回遊促進へ (2019年6月25日)- エキサイトニュース

www.excite.co.jp

通路幅は2.5m、延長は約160mです。2020年の東京オリンピックパラリンピック開催に向け、観光拠点である浅草(東京都台東区)と東京スカイツリータウン(同・墨田区)を結ぶ最短ルートとして整備し、回遊性向上を図ります。完成は2020年春の予定です。

2020年春、浅草と東京スカイツリータウン®をつなぐ高架下複合施設を開業します!東武鉄道プレスリリース、PDF)

http://www.tobu.co.jp/file/pdf/89b4f9a5d9b5ccb724419cfebbc9da41/190625_1.pdf

 となれば鉄道橋単独の姿は来年には見られなくなる。なのでその前の姿を収めておこうと思ったのだ。橋の下、河畔に出るとまだ大きな動きは出ていなかった。

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 スカイツリーが映るようにカメラを持って動いていると、橋上からガタンゴトンと音がして、やがて東武の車両がゆっくりとした速度で浅草駅へ進入していく。東武も運行を再開したようだ。予想していたよりも早い。

 

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 来年、どころか次の春にはここに対岸への遊歩道が架かっている。どう変わっていくのか、今の姿をぜひ記憶しておこう。

 

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 東武は一部の路線で不通となっているものの、首都圏の基幹となる部分は運転されている。これなら当初の予定通り昼過ぎにはゆっくりと友人の家へ行けるな。良かったと胸をなでおろす。


が、そう上手くはいかなかった……。

嗚呼、台東館

 まだ昼まで時間があるので東武浅草から上野方面のバス停へ向かう。僕がいたのは東武浅草の北の端なので、本数の多いバス停へは浅草寺を抜けて少し歩かなければならない。
 馬道通りへ出たときにある考えがよぎる。あ、どうせなら台東館を見ておこう。
 少し北へ歩くと見えてくる、テキレボの会場ですっかりなじみ深くなった都産貿の台頭館が、こちらに影を作ってそびえている。

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 晴れた空の下に!!

 本当に抜けるような青空は憎々しいほどで、台風があと2日ほどずれていたら、と思わずにはいられない。おのれ台風。

浅草は人だかり

 二天門を通り本堂を横目に宝蔵門をくぐり南へ。

 仲見世は10時ごろだというのにごった帰していた。どこを見ても観光客の山、山、山で、本堂へ向かう大きな流れの中を雷門へと泳いでいく。台風の翌日なのに、と思うも雨がやんでからすでに12時間近く経っている。都バスは動いているわけだし、近くに宿があれば交通にも困らないだろう。浅草はすっかり日常に戻っていた。

 

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 しかし大提灯だけはまだ非日常から抜け出ていないようで、しっかりたたまれていた。人の多さに辟易していたが、普段はあまり見られない大提灯の折り畳み姿を見られらのでよしとする。
 観光客の中には「せっかく浅草に来たのにたたんでいるなんて」と思う人もあるかもしれないが、普段の姿などテレビでもネットでもすぐ見られるのだから、むしろ貴重なたたみ姿こそ目に焼き付けておくべきであろう。*3

都バスは所要時間が読めない

 なんだかんだで上野に着いたのは10時半ごろ。宿を出てここまですでに1時間半を過ぎている。
寄り道をしすぎたからであるが、都バスの所要時間がまったく読めないのも原因だ。

 いや、都区内では都バスに限らない。そもそも土地勘(と都市規模の大きさの実感)がないので、地下鉄なんかでも見込みよりも時間がかかって面食らうことしばしだ。なんだかんだで山手線を横断したり縦断するようなコースの時でも、地下鉄を使うよりも山手線+αの方がわかりやすく早かったりもする。思うに東京の地下鉄は山手線の内側でぐねぐねと曲がりすぎである。

台東区下町風俗資料館』へ

 話がそれた。上野へ出たのどうしようかと少し思案して、かねてより機会があれば行こうと思っていた『台東区下町風俗資料館』へと向かう。不忍池の南東にあるので、上野駅からは歩いてすぐだ。これに関しては別の記事として仕立てた。

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上野駅にて

 12時過ぎに資料館を出て秋葉原まで歩く。
山手線はすでに動いているのを確認していたので、秋葉原のミルクスタンドへ立ち寄って宿へ戻ろうとした。が、閉店していた。張り紙等はなかったが、おそらく台風の影響だろう。仕方なしに山手線で上野へ出る。
構内では各線の運行状況等を伝えていた。東北線高崎線の運転再開が近いようで車内で待つように放送が流れている。
が、ほどなくして再開を少し伸ばすとの放送。両線の電車が同じホームで向かい合って退屈そうにしていた。
エキナカも14時からの再開だとデジタルサイネージが告げていた。時ちょっと前に資料館を出て秋葉原まで歩く。
 山手線はすでに動いているのを確認していたので、秋葉原のミルクスタンドへ立ち寄って宿へ戻ろうとした。が、閉店していた。張り紙等はなかったが、おそらく台風の影響だろう。仕方なしに山手線で上野へ出る。
 構内では各線の運行状況等を伝えていた。常磐線は一部で運転再開。東北線高崎線の運転再開が近いようで車内で待つように放送が流れている。が、ほどなくして再開を少し伸ばすとの放送。両線の電車が同じホームで向かい合って退屈そうにしていた。

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 上越新幹線は予告通りに運行再開。新潟行きのみが表示される案内板。

 エキナカも14時からの再開だとデジタルサイネージが告げていた。

 

バッハでコーヒーを

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 見返り柳からスカイツリーを仰ぎ見て宿へ戻る。

 前にカフェ・バッハへ寄り道。開店していた。お昼少し前でそこそこの客入り。
 グァテマラ・コンポステラを飲む。コンポステラと聞くとサンチャゴが思い浮かぶ人間である。コーヒーといえば蘊蓄を語りたくなる人もいるだろうが、美味しいの一言で十分だ。

 

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 甘いりんごのケーキと苦いコーヒーで大人な雰囲気を味わう。

本格的に出発

 宿へ戻り汗を洗い流し、用意していた泊まりの準備を手に宿を出発。本日四度目だが、帰るのは明日の夜だ。これまでの細かな外出とは違う。宿を取ったまま中抜けする形になるが、途中一泊分だけチェックアウト、またインするのも時間に縛られすぎるのでこうした。

だけどやっぱり寄り道、王子へ

 先ほども書いたが友人宅は東武沿線なので、南千住から日比谷線で北千住以遠で乗り換えればよい。のだが、その前に買っておきたいものがあるので駅とは反対の吉原方向へ歩く。

 慎重に日陰を進む。汗をかきたくないから。僕は汗をかくのが好きではない。特に脇汗がよろしくない。あの濡れた感じがすきではないのだ。汗の臭い、というか僕自身は自分の匂いが好きなのであるが、他人にはかがれたくないので、外出時はいかに汗をかかないかで苦労する。

 10月になってまで汗を避けるようために半袖を着るなどとは思ってもみなかった。

 

 日本堤のバス停から草64系統*4王子駅前まで出る。約30分。

 王子は北区における都バスの大きなターミナルである。この近くに目当てのブツがある。

バスターミナルの反対側、線路を挟んだ西は狭い道になっており、さらに西へ延びる路地があり、入ってすぐ左に小さな屋台が出ている。大阪ならたこ焼き屋によくある趣の屋台である。

 ここだ、ここに売っているのだ、王子名物の玉子焼きが。

扇屋――王子の玉子

 王子の名所といえば桜で有名な飛鳥山公園であるが、このお店はその飛鳥山に桜が植えられ造成される1720年よりもさらに前、1648年の創業である。江戸時代が始まってまだ45年しか経っていないころから実に370年近くもの老舗だ。

www.ouji-ougiya.jp

 飛鳥山は江戸から手軽に行ける桜の名所として大いに賑わったというから、元は茶屋であったという店も繁盛したそうだ。時代が大きく変わり現在は玉子焼き一本でやっているが、これがうまいと評判なのでいい機会に買って食うことにした。

王子扇屋、料理屋の小結の玉子焼き:アーバン・ヘリテージ・クロニクル

 

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 屋台が空っぽなのでチャイムを押してお店の人を呼ぶ。ほどなくしてお兄さんとおばちゃんがビニルパックの入った袋を手に出てくる。しかし僕が欲しいのはパック入りのハーフサイズ(650円)ではなく、折に入った大きなもの(1300円)である。店頭にはパック入りを置いて、折のものはそのつど奥から取ってきてくださる。お店の人には少し手間を取らせるが、土産なのでせっかくだからしっかりと折に詰められたものを届けたいではないか。

 

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 無事に手に入れて細い路地をもう少し西へ行くと小さな川沿いの遊歩道に出る。音無川親水公園。小川は音無川と呼ばれているが、これは石神井川の別名だ。一帯は滝野川とも呼ばれていた地区で、その由来はこのあたりの流れが滝のような急流であったと伝えられている。
 王子駅の西側は武蔵野台地の東端にあたっていて、付近で川は蛇行し渓谷となっていた。いまその面影は石神井川沿いにわずかに公園としてそれらしく整備されているばかりである。
 栄枯盛衰。

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いよいよ本来の目的地へ

 土産を買ったので東武の駅へ出なければならない。もちろんこれは下調べをして一本で行ける経路は記憶している。
 というよりも、王子から一本で行けるから遠回りをしてでも玉子焼きを買いに寄ったと言うべきか。山谷から一本で王子へ出られて、一本で東武の駅まで行けるのだから便利なものである。

都バス上位路線

 王子駅前から王40甲系統の客となる。池袋駅から王子駅を通って東武西新井駅まで走る路線は、日中5~6分に1本という高頻度運行で、都バスの中でも上位の客数を誇る路線だという。実際、王子から乗ったバスはかなり混雑していた。
 最初に見かけたバスが混雑していたので敬遠したが、その次もさらに次も混んでいたので腹をくくって乗り込んだほどだ。

荒川の水

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 少し走って隅田川を渡ると(足立区)宮城地区に入る。

 隅田川と荒川に挟まれており、ハザードマップを見るまでもなく氾濫があればひとたまりもない地域だと分かるような地形をしている。実際に通ってみると宮城はふたつの河川の堤防に挟まれた低地状で、もはや輪中と言ってもよいような区域であった。

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 バスはすぐに荒川を渡るのだが、その水量がすさまじかった。

 

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 堤防のすぐ下まで水が来ている。上流からどんどんと水が流れるので今(当日14時ごろ)をもっても高水敷までどっぷりと泥色の水に浸かっているのだ。

 

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 河川敷の木が辛うじて頭を出している。朝に見た墨田川の水量がそこそこで済んでいたのはひとえに岩淵水門と荒川(放水路)のお陰だというのが一目でわかる光景だ。今日見た中でもっとも台風の惨禍と脅威を覚えたのがこの荒川の水量であった。

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 宮城地区に限らず荒川沿いの人は眠れぬ夜を過ごしたであろうことは想像に難くない。

 

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 しかし土手沿いではやっぱり人々が散歩やジョギングで行き交っており、溢れかえりそうな荒川と普段通りの生活をしている人々の対照性にいささか驚きもした。もっともそれは僕も同じようなものであろう。イベントが中止になると出発前に告知されているにもかかわらず、旅に出て、予定の継続を図ろうとしているのだから。

途中で降りるけど寄り道はしない

 荒川を降りたバスは狭い道に入る。

 バス同士がすれ違うには一方が端までぎりぎりに寄らねばならない道幅だ。歩道がなく、普通に走っていても電柱をかすめるようにしていく。おそらく荒川沿いの古くからの住宅街なのだろう。そんなところを都バスが、しかも高頻発路線が走るのが意外だった。

 狭い通りを数分おきにバスとすれ違う。
 帰って調べてから知ったが、江北バス通りと呼ばれているそうだ。

 

 大きな通り(環七)に出てすぐに西新井大師へ。バスはこのまま西新井駅まで行くがここで降りる。ついでに東武大師線に乗っておこうという魂胆だ。

 

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 バス亭は参道のすぐ近く。であるが、正面に見える西新井大師には目も触れず駅へ向かう。

 

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 都区内では珍しい無人駅。

 

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 出入札は隣の西新井駅でいっぺんに行う。

 

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 窓口のシャッターは下りていて、広い改札口には誰も立っていない。正月でもなければ駅員がやってこないような駅である。

 

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 上がれば終着駅の風格が漂うだだっ広いホームが迎えてくれる。

 

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 一本のホームに一本の線路、やがて到着する2両のワンマンカー。そんな構内に西日が差し込んで、一層の侘しさを醸していた。電車はすぐに折り返す。

 大師前を出て2,3分も走れば間もなく西新井であるが自動放送が「大師前」と告げる。

 

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 LEDの車内案内も「まもなく大師前」と流れる。
 乗務員が折り返し時に切り換える操作を忘れたのだろう。もっとも路線は西新井と大師前の一区間だけであるから支障はない。客も気にする素振りもなく過ごしている。都内ではあるが何とものんびりとしたものだ。こうした雰囲気も相まって都内のローカル線といった風情がする。*5

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 西新井駅大師線ホームは改札の中の改札で分離されており、駅から出るには改札を二回くぐる必要がある。

 

 西新井で乗り換えて友人の家へ向かった。すでに15時10分を回っていた。大きな遅刻である。

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 なのに竹ノ塚止まりが来たからつい乗っちゃう。途中駅どまりっていいよね。京成のうすい行きとか、西武池袋線保谷行きとか、

 

 遅刻に関しては宿を出た時点で17時の見込みと連絡して許可をもらっている。しかしそれはそれで遅くはなったので、金沢で買っておいた羽二重餅と金箔コーヒーもあるので、これもお土産お詫びとして渡して謝ろう。

ケチが回転すしを食うとこう考える

 その晩は友人たちと寿司を食べに行った。といってもみんな「何皿いけるか競おうぜ」みたいな昔の学生気分が抜けきらないので回転寿司である。
 回転寿司に入ったのは12,3年とかそういうレベル。今どきはほとんどが注文で済ませてしまうらしく、無造作に回っているのを取るような楽しみはほとんどなかった。というか、食べたいものが回ってくるのを待っているとすごい時間がかかる。
 そもそも最初に食べたい玉子が回ってこないし……。順番を組み立てて食べる人間なので目に付いたものから、という気分にはなれない。待つのもいいが、人と一緒に来ていて、しかも先方がばんばん注文している間もずっとレーンを見て過ごすのも、変に気を遣わせてしまうだろう。あげく、向こうがお腹いっぱいになってもこちらはまだ済んでいない、という状況にも陥りかねない。
 結局は僕も折れて注文をした。
 そして注文したものが回ってくるのを待つ間に思った。

 スーパーでパック寿司を買ったほうが安上がりだったかも、と。
 そこまでのケチ野郎である、私は。

 しかしこうも考えた。

 普通のネタはスーパーのパック寿司にも入っていて待たずに買える。せいぜいがレジの列ぐらいだ。一方で回転寿司は到着までの待ち時間が一ネタごとなので総合的に長く、その分だけ損をした気分になってしまう。なのでパック寿司と同じようなネタを選んでも損した気分が積みあがっている。なれば、パック寿司には入っていないネタを選べばそういう気分はいくらか和らげられるだろう。
 という次第で魚よりも肉系を選んだ。

 これは僕としては臨機応変に対応できた方だと思っている、と自賛。*6

 

 

*1:駅の近くに墨田川から引き込んだ運河があった。

*2:石炭を蒸し焼きにする。この過程でコークスが生じる。ガス会社はこれも収入源のひとつとしていた。

*3:折りたたんであるのも今どきはすぐネットで見られるけど。

*4:浅草と池袋をおおむね明治通り経由で結んでいる。尾久駅を通る唯一の系統。

*5:実際には日中10分に1本の支線だ。けしてローカル線ではない。

*6:僕は光り物や芽ネギが好きなのであるが、前者は傷みやすいからあまり回っていないし種類も少ない、後者はそもそも回転寿司では見ない。そもそも関西歴が長いので寿司といえばバッテラや柿の葉寿司みたいなところがある。どっちも鯖だな。